2026/1/17 12:33
本の紹介
この本にあるのは、救いではありません。陶酔、甘美、毒、破滅。そして、選ばれなかった者のための美。
『邪宗門』の言葉は、読む人を慰めることも、導くこともせず、ただ、深く沈めます。それでも人は、この詩から目を離せない。なぜならそこには、「正しさ」や「光」からこぼれ落ちた感情が、あまりにも美しく結晶しているからです。
特に「赤き花の魔睡」。学生時代から、この詩を愛してきました。赤い花、甘い眠り、抗えない誘い。
それは堕落ではなく、現実の冷たさに対する、ひとつの誠実な選択のようにも思えたのです。
『邪宗門』の夜は、誰かに選ばれるための夜ではありません。祈りが届かない場所で、それでもなお美を手放さない人の夜です。
エンデにこの本を置くのは、やさしい物語だけでは、人は生ききれないと思っているからです。希望や光の言葉に疲れたとき、甘美な毒に身を委ねる夜があってもいいのです。
この本は、「正しく生きられなかった者」に罰を与えるのではなく、その在り方ごと、美として差し出します。
エンデは、光のためだけの場所ではありません。月の下で、赤き花が静かに眠る場所でもありたいのです。
